茅野市の糸魚川静岡構造線(茅野断層)

 約2000万年前にフォッサマグナを形成した糸魚川静岡構造線はその後も活動し、現在でも日本 で最も活動的な活断層と言われている。最近は北米プレートとユーラシアプレートの境界にあた るとの説も提唱されており、糸静線の歴史を編むことは日本列島の歴史を考える上でもきわめて 重要である。  糸静線は主に中古生代の地層からなる「西南日本」と新生代の地層からなるフォッサマグナ区 との間に引かれた物質境界であるが、現在地表で活動している糸静線は、大町市の北から富士見 町までは盆地の中を通過しており、地表において現在の糸静線の活動によって変形を受けている 物質は盆地内に堆積した非常に若い地層である。茅野市付近の糸静線も盆地の中央部を通過して いて「茅野断層」と呼ばれ、八ヶ岳噴出物などの若い地層が変形を被っている。
(左上写真)茅野駅北西の断崖は茅野断層によるものである。東側が7~8m高くなっている。 家は懸崖造りになっていて断崖の西側で見ると2~3階が東側では1階になっている。 (中上写真)諏訪地方の大祭「御柱」で大木が通過する「木落し坂」この崖も茅野断層の活動に よるものとされている。遠景は八ヶ岳。手前の橋はJR中央東線鉄橋 (右上写真)木落し坂のすぐ北西側の上川河床には八ヶ岳噴出物からなる基盤岩が表れている。 断層の近くにも関わらずほとんどもめていない。このようなものがこんな場所に現れてい てよいのだろうか
 坂室は茅野断層による変形地形が表れている所として有名である。北に向かって流れてきた宮 川が急に流路を南に向け、再び北に戻ってS字状に屈曲している。しかも流路が南に変化する部 分には独立した丘が存在しているからだ。このようなおかしな地形は茅野断層が左横ずれの活動 をしていると考えると説明がつく。先ほど述べた独立した丘は断層の東側に存在する尾根が切ら れて移動してきたのだという。 (左上写真)国道20号線沿いから北方を見て撮影。断層は道路の下を通過している。道路の左側   の丘は、道路の右側の奧にある丘とつながっていたものが断層で切られて手前側に移動して   きた。 (中上図)横ずれ断層が平坦な面内で活動しても変位量が分からない。 (右上図)坂室付近の概念図。(緑色:丘  青:河川)もともと起伏がある地形だと断層活動   による変位量が読み取れる。丘が形成された年代と、変位量が判明すると、変位速度が求め   られる。坂室の地形はそうした変位量が分かる点でも重要な場所なのである。こうして求め   られた値は茅野市周辺で1000年で8mで、日本に無数に存在する活断層のなかでも変位速度   (活動度)は最大だという。  さて、茅野駅付近や木落し坂では断層を境に東側が隆起し西側が落ち込む動きをしていた。一 方で坂室では左横ずれの動きをしている。茅野断層は垂直方向の活動と水平方向の活動を併せ持 つ断層であるが、水平方向の動きのほうが垂直方向の動きより20倍以上大きい「左横ずれ断層」 らしい。   <参考文献>    東郷正美,1987,茅野市坂室付近の糸静線活断層系による変位地形,活断層研究4 藤森孝俊・太田陽子,1992,諏訪盆地の活断層詳細図,活断層研究10    信濃毎日新聞編集局,1998,信州の活断層を歩く,信濃毎日新聞社 (宮坂 晃)

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