昼神温泉周辺の地学(阿智村)

 伊那谷は温泉が少ない。東北信に比べて数や密度がだいぶ違う。温泉が存在するためには豊富 な水脈とそれを温める熱源が必要である。一般に火山帯と温泉分布は一致し、熱源が地下に存在 するマグマであることは明らかである。しかしながら地図を見ると南信には火山が全く存在しな い。そこで南信に大規模な温泉は存在し得ない、とかつては思われていた。
 地球は地下ほど温度が高く、平均的な上 昇率は100mで3℃である。(地下増温率ま たは地温勾配と呼ぶ)従って、温泉の平均 的入浴温度である 42℃ の温水を得ようと 思うなら、 42 = (3/100)×X(エックス) の方程式を解けばよい。X(エックス)の答えは 1400mである。日本中どこでも1400mの穴 を掘って水脈に当たりさえすれば温泉が湧 くことになる。しかし、100mで数百万円 の金がかかるボーリングを考えると温泉ボ ーリングは火山帯に集中することになる。
 阿智村昼神において昭和48年、鉄道建設のためのボーリングをした際に地下数十mから温泉が 湧き出した。こうして偶然に発見、開発されたのが昼神温泉郷である。泉質はアルカリ性単純硫 黄泉、アルカリ性単純温泉などの報告がある。(上写真 昼神温泉。阿知川に架かる橋より) ● 昼神温泉の地下温度について ●  昼神温泉周辺は地質学的には領家帯に属し、領家帯に貫入してきた清内路花崗岩が広く分布し ている。領家帯では中生代~新生代初頭にかけて何回かの花崗岩の貫入が生じた。これらの花崗 岩のうち、濃飛流紋岩類より古いものを古期、新しいものを新期と分類していて、清内路花崗岩 は新期花崗岩メンバーである。(今から8000万年前に貫入したとされる。)  花崗岩の年齢が古く熱源には乏しいが、この付近に発達する断層帯により地下深くまで達して いる水脈が存在するらしい。
(↑阿智川河原で見られる石) 白く粒々模様の石は花崗岩、黒っぽい石は領家帯の砂岩など。 灰色っぽい石には濃飛流紋岩類の石英斑岩などが見られる。
(左上写真)昼神温泉から清内路村に向かう途中に表れる長寿の滝 (右上写真)滝付近に露出する清内路花崗岩。等粒状組織。白い部分は長石、灰色は石英、黒い       部分はほとんど黒雲母、一部角閃石。清内路花崗岩は等方性が強く、石材によく使       われるそうだ。 <参考文献>  建設省(国土交通省)天竜川上流工事事務所(1981)天竜川上流地質解説書,中部建設協会  日本の地質『中部地方Ⅰ』編集委員会(1988)日本の地質4 中部地方Ⅰ.  阿智村観光協会(2011)阿智村観光パンフレット (宮坂 晃)

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