南アルプススーパー林道(長谷村)

 南アルプススーパー林道は地元の強い要望を受け、自然保護派の反対を押し切る形で建設された。長谷村 戸台から県境の北沢峠まで、歩くと4~5時間程度の道のりだ。 この道路は一般車両は通行禁止で長谷村運営の林道バスが4月から11月まで運行している。観光客が山に 入らない冬の終わり頃からバスを運転している運転手さんが林道の整備を入念に行っている。運転手さんは 付近の地形・地質・植物・動物・山の自然なら何でもよく知っている。相手が自然を愛し、かつ盗掘する意 志がないことが本当にわかると、珍しい高山植物群落の在処まで連れて行ってくれる。  さて、この林道沿いはほとんど全面露頭となっていて、秩父帯の南帯(または三宝山帯)と四万十帯及び それらを分ける仏像糸川構造線が観察される。(上写真)林道から見た鋸1峰および甲斐駒


(左上写真)石灰岩の薄層を挟む粘板岩。キンク
バンド状に変形している。

(右写真)幕岩。大石灰岩露頭。東に傾斜している。
むき出しになっている部分が石灰岩層。
林道入り口からしばらくはつづら折りの道が続く。露出しているのは秩父帯に属するチャート、玄武岩質 溶岩、緑色凝灰岩、頁岩などで、砂岩層はあまり発達していない。  つづら折りの道を登り切ると道はやや平坦になって東の方向に向かう。そこに現れているのは主に頁岩・ チャートの互層で、緑色凝灰岩を頻繁に挟む。そして白い石灰岩層が次第に多くなりついに塊状の大石灰岩 層に漸移していく。 (左下写真)石灰岩露頭。(右下写真)石灰岩は一部結晶質化し、方解石状の劈開を示している。
その後またチャートや緑色凝灰岩が分布した後、今度はやや黒っぽい石灰岩層が出現する。南アルプス林 道に現れている石灰岩層はおそらく長野県内では最も厚いだろう。こうして道路沿いに現れている岩相はこ れまで述べてきたように繰り返しがなく、褶曲によって同じ地層が繰り返し出現している様子はない。  さて、林道が南に大きく迂回する谷(唐沢)の先端に仏像構造線露頭がある。もちろんこの谷は構造線谷 である。 (写真下)仏像構造線(BTL)。黄色のバーの間に存在している。九州や四国では仏像線は西に緩く傾く スラストだが、ここでは高角の東傾斜の断層で、見かけ上、正断層のように見える。秩父帯の石灰岩中には 断層と平行な滑り面がいくつも存在している。(釜無川のページ参照)
 断層の西側に位置する秩父帯の石灰岩層が東に急傾斜しているのに比べ、四万十帯の地層は緩傾斜だ。 四万十帯の断層に接した部分にのみ波長数十cmの褶曲が見られる。(上左写真) (上中図)現在の露頭の概念図。茶色:四万十帯の砂泥互層 黒線:BTL 青:秩父帯の石灰岩 (上右図)仏像構造線(BTL)を元の傾斜に直すと、四万十帯の褶曲がBTLの活動によるdrag fold      (引きずり褶曲)であることがよくわかる。 
(左写真)四万十帯赤石層群の地層。泥岩が優勢 の砂泥互層。   四万十帯は砂泥互層を主とする地層から成る。 秩父帯を構成する物質がどちらかというと遠洋の 堆積物なのに比べ四万十帯の構成物質は陸地に近 い堆積物である。秩父帯は中生代ジュラ紀、四万 十帯は中生代白亜紀の、両者ともに海溝から海洋 プレートが沈み込む際にはぎ取られた付加帯堆積 物である。
 同じようなからくりで形成された地質体にもか かわらずなぜこのように岩相が異なるのだろうか? それはおそらく白亜紀に日本の原脊梁山脈が形成されたことやプレートの動きがジュラ紀と白亜紀で転換 したなどの要因が考えられ、これからの研究が待たれる。        (宮坂 晃)

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