南アルプス塩見岳
 塩見岳は南アルプスの中央部北に位置し、頂上 に立つまでには必ず前泊をしなければならない奥 深い山だ。標高(西峰)は3047mだが、実際には 東峰のほうが5mほど高い。 「塩見」の名前の由来は頂上から太平洋が見える からとか、ふもとの鹿塩(かしお)で塩が取れる からとか、諸説あるらしい。  この山は、あまたの芸術品がそうであるように 見る方向により形が異なる。南北方向からは丸い ドーム状に、また、東西方向からは鋭くとがった 尖峰に見える。
 南アルプスの大部分は地質学的には九州から長野県までずっと続いて現れる四万十帯に属し、 主に中生代白亜紀の堆積物(1玄武岩質溶岩、2緑色~赤色頁岩とチャート、3頁岩および酸性 凝灰岩、4砂岩泥岩互層、5砂岩層)などから成っている。露頭規模の観察によれば、上記1→ 5の順で地層が重なっていることが多いので、かつてはこの順に層序が組み立てられて地質図が 描かれていた。

(左)奥のとがったピークが塩見岳頂上
(右)三伏峠に現れているレンズ褶曲した砂泥互層
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 1980年代頃から四万十帯は日本の各地で微化石(放散虫)を使った地層の年代決定研究が進み、 堆積した年代が詳しく判明してきた。そして全体の地質構造も明らかになった。四万十帯は一般 的には並走する数多くの断層によって細長く切られ、切られたそれぞれの帯の地質年代は太平洋 側ほど新しかったのである。  こうして、四万十帯は海溝で沈み込む海洋プレート上の堆積物が、陸側のプレートの下側に貼 り付く(付加する)付加体の典型だと考えられるようになってきた。そして、その時こそ地質学 者が古典的な地向斜造山運動論に決別を迫られる時でもあった。
 長野県側から塩見岳に登るには小渋川を遡上する のがこれまでのルートだったが、最近鳥倉林道が奥 まで伸びアクセスが便利になった。小黒山の東側に 仏像糸川構造線が存在し、これより西側では秩父帯 の厚い石灰岩が、東側では広大な四万十帯のうちの  赤石層群に属する砂泥互層が現れている。  権右衛門山から塩見岳頂上にかけては白根層群と 呼ばれる地層が分布し、この地層は緑色岩およびチ ャート、メランジェ、オリストロームなどから構成 されている。  (右)頂上付近のチャート、緑色岩(玄武岩)
 メランジェは砂泥互層中にブロックとして含まれているチャート・緑色岩類から産出する放散虫な どの微化石が、周囲の砂泥互層中の微化石より常にやや古いという事実から考え出された概念だ。こ のようなものは日本の遙か南で堆積したチャート・緑色岩類が、プレートの動きによって何千万年も かかって日本付近まで運ばれ、海溝からプレートが沈み込む際に、より新しい砂泥互層と混ざり合っ てできたと考えられている。また、オリストロームは成層状態が壊れた堆積物で、海底地すべり堆積 物と考えられている。
↑ ↑ ↑ ↑  北岳 間ノ岳 西農鳥岳 農鳥岳  (3193m) (3189m) (3051m) (3026m)
(日本2位) (日本4位)
くろゆり
 北アルプスや中央アルプスが花崗岩などの深成岩類が広く現れているのに比べ、赤石山地は深成岩 類は甲斐駒ヶ岳・鳳凰三山にしか見られず大部分は堆積岩が現れている。赤石山地が大昔から高い山 脈だったとすれば、侵食作用によってどんどん削られて深成岩類が広く現れるはずだが、そうでない ことから赤石山地は最近になって急激な隆起をしたことがわかる。そしてそれは今でも続き、隆起速 度は日本列島最大級である。
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